古医籍の翻字を試みていると,しょうもないことに悩む。
仁和寺本『太素』の「殺」を「煞」と入力すべきかどうか。
『干祿字書』では「殺」が正で,「煞」は俗なんです。
正字に統一する!と宣言してしまえば,まあ楽なんですよ。
でも,実際に使われている異体字の情報も保存したい,なんてしょうもないことを考えるとややこしい。
今は,パソコンで使える漢字もずいぶん増えたから,「煞」でも大丈夫なんです。
それに,これは『水滸傳』の地煞星の煞なんだから,中国趣味の人間だったら知ってろよ……,と言ったって,それほど無理では無かろうし。
でもね,仁和寺本『太素』に書かれているものの多くは,実際は「煞」でもないんです。
下の列火(灬)に当たるものが,✓のような一画になっている。
こんなんだったら,わざわざ「煞」にしたって五十歩百歩。
でもね,造字の意図は違うんじゃないかとか,いや楷書化の手際の差に過ぎないのかも,とか。
ある本では(普段書いている字でいえば)「胸」なのに,ある本では「胃」になっている,なんてときには,やっぱり底本通りに「胷」にしておくことにも意味が有ると思うんです。
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