西岡由記『図説難経』(2012)に,五十六難の「肝之積 名曰肥氣 在左脇下 如覆杯 有頭足 久不愈 令人發咳逆 㾬瘧 連歳不已」の「歳」は「噦」と読むべしという説が紹介されている。臨床的には,左脇の下にしこりが有ると,逆気して噦(しゃっくり?)が続くことはしばしば経験しているし,またそもそも文章的にも,「久不愈」と「連歳不已」では,慢性化する解説がかさなるのはおかしい,とのことです。
でも,今までの中国の学者さんにも,そうした異見の人は無かったというのは,しこりができて,それが簡単に消えてくれればいいけれど,そうでないと咳き込んだり,瘧を発病したりして,何年も苦しむことになる,ということで別に不都合を感じなかったということでしょ。
もう一つ蛇足を付け加えると,そもそも十七難に,経言として「病或有死,或有不治自愈,或連年月不已」というのが有る。同じ書物の中で,かしこでは「連年月不已」,ここでは「連歲不已」だとすると,どうしてそんな言い換えをしたのか,不審ではある。そこで,何愛華『難経解難校訳』(1992)では,『脈経』、『甲乙』、『病源』巻十九『積聚』、『要方』、『外台』、『校訂』に拠って「月」字を補って,「連歳月不已」としている。現代中国人にとっても,「月」字が有ったほうが自然な言い回し,ということなんですかね。「年」じゃなくて「歳」なのは,もとの字がそれかそれに近い形だったから,ということなんですかね。
読書会の仲間の乗黄さんが,
回覆刪除>「俗解難経抄」の56難では何の指摘もなしに「・・・噦逆也、・・」って当然のごとく記されています。
と知らせてくれました。
調べてみると,『新刊勿聴子俗解八十一難経』の五十六難の解に,「……久而不愈.令人咳逆㾬瘧.咳逆・噦逆也.……」とありますね。
ただ,ちょっと不安なのは,句読です。「……久しうして愈えざれば,人をして咳逆、㾬瘧せしむ。咳逆とは,噦逆なり。……」と読ませるつもりのようです。「連歳不已」の「歳」は「噦」のことなんだというのではなくて,「令人咳逆」の「咳逆」は「噦逆」(シャックリ?)なんだといっている。
「……久しうして愈えざれば,人をして咳逆、㾬瘧せしむ。咳逆し,噦逆するなり。……」なら良いのかも知れない,けど。
回覆刪除「令人咳逆」の「咳逆」が,咳き込むのではなく,シャックリなんだというのも,ホントかいな,だものね。
ただねえ,『内経』の「噦」が必ずしもシャックリか,というとねえ。
回覆刪除郭靄春主編の『黄帝内経詞典』では:
①乾嘔。声は有っても物は無いような嘔吐。『霊枢・邪気蔵府病形』:「心脈……小甚為善噦,微小為消癉。」『素問・陰陽応象大論』:「其在天為湿……在変動為噦,在竅為口。」
②呃逆。『霊枢・雑病』:「噦,以草刺鼻,嚏,嚏而已;無息而急迎引之,立已;大驚之,亦可已。」『霊枢・口問』:「人之噦者,何気使然。」
で,①はカラエズキで,②はシャックリ。「咳逆,噦逆也」は,「咳逆は,カラエズキなり」です。セキコミをカラエズキというのは,まあまあでしょう。