パソコンには,マザーボードやプロセッサやハードディスクやケーブルやキーボードやマウスなど,そしてケースが要る,つまりハードウエアの無いパソコンなどというものは有り得ない。人体においても,皮膚や血管や筋肉や骨骼や内臓など,つまり物質としての肉体が無いわけにはいかない。
しかし,パソコンは,スイッチを押して電源が入り,ソフトウエアが立ち上がってこそ,パソコンである。人も,ただそこにどてっと横たわっている肉の塊を,人とは言いがたい。人では五蔵がソフトウエアを分担して,人を人らしい生命たらしめている。
そして,人のパソコンとの最大の違いは,運転に要するエネルギーを輸入し配給し,ハードウエアを維持し更新する装置を,自前で持っていることではないか。つまり人には六府が有る。
五蔵の不調は,原穴に現れる。そして,原穴に現れた異常を治めてやれば,五蔵の不調も治まると期待される。もし反応も効果も思わしくないとなれば,経脈上を指先側あるいは肘・膝側に探ってみる。そこで,本輸というグループが想定される。何故に,原穴か。最初は五蔵の近くに診断兼治療点が有ったはずである。ところが偶然にか,考えに考えて,探しに探しての結果か,腕・踝関節付近に特異なポイントを見いだした。その方が使いやすいには違いなかろう。では,もともとの,五蔵付近の診断兼治療点は何処だったのか。今いうところの背兪などはよいかも知れない。そこで,五蔵の病を疑ったら,原穴を取ってみる。思わしくなければ,指先あるいは肘・膝側に探ってみる。原穴と背兪で挟み撃ちもおもしろい。
六府の不調は,下合穴を試みる。六府のうちでも,胃・大腸・小腸は,一組だろう。だから,足陽明の膝下に三里・上巨虚・下巨虚が並ぶ。水に関しては,三焦と膀胱の治療点として膝の後ろに委陽と委中が並ぶ。そもそも三焦と膀胱は一体に近いから,これは妥当だろう。胆は,消化器系全体の不調,あるいは中毒のような事態を想定しているのかも知れない。陽陵泉を取る。もう一つ,脾は蔵であるけれども,他の四蔵とは別格のようで,水穀の精微を分配する役目を負うているのだから,これも下合穴じみた陰陵泉で対応させてよさそうである。『霊枢』九針十二原篇には,陽陵泉と陰陵泉も番外風ながら登場する。そういえば,『霊枢』の十二原穴には,五蔵の十原の他に,鳩尾と脖胦が有る。これはひょっとすると,府の原穴ではあるまいか。鳩尾は上腹の担当で主な症状は脹,脖胦は下腹の担当で主な症状は泄,なんてね。
ハードウエアとしての肉体はどうするか。ケースに相当しそうな筋肉系統であれば,圧して気持ちいいとか痛いとかに,火鍼を試してみてはどうだろう。その他のハードウエアの故障で,鍼灸ではちょっと難しそうなものは,別の手立てを考える。外科のお医者さんに頼ったからとて,裏切り者よばわりは,ちょっと違うのではあるまいか。
『霊枢』の幾篇かに,頚周りに陽経が到達したポイントのセット(ほとんどに天の字を冠する)の記載が有る。消化器系統あるいは筋肉系統のどちら用なのか,本当は分からないけれど,どっちにしても試してみる価値は有りそう。
背兪―(蔵)―原穴
頚周りの天穴―鳩尾or脖胦―(府)―下合穴
頚周りの天穴―圧痛点
原穴と背輸で挟み撃ちは,『霊枢』衛気第52をヒントにしている。
回覆刪除下合穴と鳩尾あるいは脖胦の組み合わせは,『霊枢』四時気第19をヒントにしている。