2016年9月30日 星期五

『笑府』巻十形体部
屄篤(松江人呼屄為篤)
人問其友曰:同一陰物,或称屄,或称篤,何也?友曰:毛而瘦者為屄,光而肥者為篤。因問令正有毛乎?無毛乎?其人即喝曰:咄。(咄篤同音)

按ずるに,字書には屄は女陰,𡰪は尾下竅で音篤とある。してみると,篤は性器ではなくて,肛門なのであろう。つまりこの笑い話は,岩波文庫の注「これは無毛だと告白したことになる」では,的外れということになる。女色か男色かとからかわれて,男色だと告白してしまったのである。

なんだか卑猥な話のようだが,そうではない。
『太素』巻第十 経脈之三・督脈
其絡循陰器,合間,繞後,
楊注:督脈之絡,[從]庭孔,別左右,循男女陰器,於間合,復繞於後也。,音督,此□□□□後也。
の「簊」は「篤」の誤りであろうという話。簊の下部の土は,実際には俗字で圡と書かれているからいよいよ篤と紛れやすい。篤、督、𡰪、䐁が同音で,尾下竅の意なら、䐁(字典は豚に誤る)が正で𡰪が俗であるが,篤と書かれることも有ったらしい。

3 則留言:

  1. 原注に「松江の人は屄を呼びて篤と為す」とあるのが微妙だけど、尸の下に穴でも口でも同じことで、なにせ微妙な箇所なんで、そんなに明確に定義なんてされてないんでしょうね。

    回覆刪除
    回覆
    1. 考えてみれば,咄と督は同音では無い。近い音だから通じるとは言えるだろうが。
      屄と篤も,同じく陰物ではあるけれど,詳しく言えば前後の違いは有る。しかしこの種の笑い話では,そこまで気にしないだろう。

      刪除
  2. 張家山漢墓竹簡の脈書に「……在篡,癰如棗,為牡痔(実は广に侍)……」とあって,「篡」に相当する字形は,明瞭なんです。だから,もともとは「篤」だったのが「簊」とか「篡」とかに誤られたと言うと,いつ頃の話か,となってしまう。相当に昔のはずですよね。でも,仁和寺本『太素』は明確に「簊」なんです。
    黄焯『経典釈文滙校・前言』の「此蓋承漢人読為当為之例」に拠って,「楊注の簊音督は,即ちこれ音を用いて字を改める注釈方法」,と言っているのを見ました。つまり「簊」ではここは不可解だから,字を改めて「督」とすべきである,という注釈。でも,「督」に改めたって,肛門に相当する義は無さそうです。同音の「篤」にならかろうじて有りそう。
    言い忘れましたが,『素問』の「篡」にしろ,『太素』の「簊」にしろ,義は肛門というのは,もう定説だと思います。
    督という音で,肛門の義が字書に載るのは,「䐁」か「𡰪」か。その同音の字で形近の字となれば「篤」だろう,というわけです。

    回覆刪除